以前紹介したエドガー・シャイン著の『プロセス・コンサルテーション』。
このときはORJIサイクルについて紹介をしましたが、同様に、プロセス・コンサル
テーションの実施者(PC)としての関わりの10原則を紹介しています。順番に
ご紹介していきます。


1.常に力になろうとせよ。

 これはPC自身の気持ちについてですが、援助関係を築く上で、まずは自分(PC)自身
 力になろうという意欲を持ち続けなければならない、と言ってます。
 PCは、この後の原則にも続きますが、専門知識を提供したり、状況を判断して診断を
 下したり、という以上に、どっぷりとクライアントの中に入り、コミュニケーションを
 取り、関係を築いていかなければなりません。相当なエネルギーと根気が必要です。
 原則の最初に「本当にその気があるか?」と自問することが大切です。

2.常に目の前の現実との接触を保て。

 シャインは支援者の関わりとして「専門家モデル」「医者-患者モデル」そして、
 「プロセス・コンサルテーション」の3つを挙げています。専門家モデルは、自身が
 持つ専門的な知識やサービスを提供する支援のありかたです。これはクライアントが
 十分に課題を認識し、また専門家もクライアントが求めているものを提供できると
 十分に確証がある場合には効果を発揮します。しかしながら、本当の課題について
 クライアント自身も十分に認識していない場合や、専門家が自身の専門に固執して
 しまい、クライアントが求めるものではなく自身の売り込みたい知識やサービスを
 提供しようとする場合、支援がうまくいかないことになります。
 PCは勝手な憶測や仮説で安易に解答を求めてはいけず、クライアントについても、
 特定の人だけの情報に限らず、広くクライアント側の人に関わり、「いま・ここ」の
 状況について、アンテナを張り続けなければいけません。
 特定の人が間違いなく状況を正確に把握していれば良いのかもしれませんが、組織内
 の人は、自身の立場や経験によって、必ず何等かのバイアス(視点)を持ってしまいます。
 だからこそ多くの人に会い、さまざまな角度から情報を集める必要がPCにはあります。

3.あなたの無知にアクセスせよ。

 これは2に続きますが、PCは自分自身が持っているバイアスや固定観念に対しても常に
 内省的である必要があります。自分は何を知っているのか?何を知らないのか?
 自分のバイアスによって事実はゆがめられていないか?
 それを確かめるには、常に自分に、そして人に問いかけ確認をし続ける必要があります。
 その過程(プロセス)をクライアントと共有し、援助関係を築いていくこと自体が
 まさにプロセス・コンサルテーションの活動、となります。

4.あなたのすることはどれも介入である。

 PCの実践は、かかわりを持ち始めた時からの過程すべてがクライアントへの介入である
 ことを自覚する必要があります。専門家や医者は求められるサービスを提供したり、
 症状を診断し処方箋を提供することで、その役割を終えるように見えますが、PCは最初
 の関係を築いていく過程、情報共有をしていく過程から課題診断から解決方法の模索まで
 をクライアントとともに進めていきます。クライアントは単にサービスを提供されるだけ
 でなくその過程から学び、自ら課題に取り組む能力を身につけていきます。これは
 アージリス&ショーンが「ダブル・ループ学習」と呼んでいるものですが、ここにPCと
 他の支援者との大きな違いがあるとシャインは述べています。


以上のことから、シャインはプロセス・コンサルテーションを以下のように定義しています。

 プロセス・コンサルテーションとは、クライアントとの関係を築くことである。それに
 よって、クライアントは自身の内部や外部環境において生じている出来事のプロセスに
 気づき、理解し、それに従った行動ができるようになる。その結果、クライアントが
 定義した状況が改善されるのである。(P.27)


PCは、まず課題に取り組むための関係を築くことから始まります。そこから現実に
目を向け(原則2)、PC自身の無知の領域が取り除かれ(原則3)、クライアント自身も
その過程を通じて現状や課題を明らかにしていきます(原則4)。この関わりすべてが
PCの提供する支援である、とシャインは述べます。

原則5以降は次回に続きます。